建艦思想に見る海上防衛論―イタリヤ海軍編
●はじめに

 イタリア海軍を論ずる前に地中海の地政学的な価値に触れておきたい。大西洋や太平洋が未だ未知の海であった時代に、地中海はアラビアやアフリカに至る海の中心であり、地中海を制した国家が世界を征していた。そして、イタリア人はローマ時代やヴェニス(ベネチア)時代には数々の海戦に勝利し、キリスト教国のリーダーとして地中海を征し、当時のベニスやジェノバは貿易や造船の中心地であった。しかし、これらの都市の商船隊は互いに競争関係にあり、さらにベニスはナポレオン戦争後にオーストリアに併合されるなど、イタリアは国家として統一されていなかった。その後に大西洋や太平洋へと航路が延びるに従って地中海の戦略的価値が低下し、それにともなってイタリアの国力も衰退し、一八西紀末には文化や貿易、産業や造船の中心地もイタリアからオランダ、そしてフランスやイギリスへと移り、その後、再びイタリアが繁栄しイタリア海軍が栄光を得ることはなかった。

 また、イタリア海軍の艦艇や武器はあまりにも独創性が強く、懲り過ぎて実戦にはあまり役立たない、「みたくれ」だけであるなどとの批判も多い。しかし、ラテン民族特有の斬新な着想から自走浮き砲台から装甲艦(戦艦)、そしてドレッドノートと常に世界の建艦思想に影響を与えて来たことも事実であり、特に最大の兵装と高速力を最小の排水量で実現しようとした日本海軍には多くの示唆を与えてきた。そこで本論では、イタリア海軍がどのような戦略の基に、どのような艦艇を建造し、これら艦艇がどのように戦ったかを検証してみたい。
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はじめに
1.イタリア海軍の誕生
2.イタリア海軍の発展
3.第一次大戦とイタリア海軍
4.戦間期のイタリア海軍
5.第二次世界大戦とイタリア海軍
6.第二次大戦後のイタリア海軍