防衛大学校図書館便り(vol.10 No.1)
本校図書館の直面する課題
はじめに
時計台とともに本校の代表的な景観を形成している図書館に、私は卒業後40年ぶりに帰って来た。新館が増設され外観も美しく蔵書も50万冊と、40年の歳月が、それなりに図書館を充実させてきていた。しかし、館長として内部から良く見てみると、図書購入経費の逼迫、定員削減(昭和50年の22名から15名に削減〕、蔵書構成比率、学生の図書離れなど、多くの課題を抱えている。そこで、本稿編集委員長からの「新館長としての抱負」との投稿依頼を「図書館の直面する課題」に替えて、皆様に図書館の抱える諸問題をご提示し、かつ、こ協力を得たく、この一文を草することに致しました。
本校図書館の直面する誤題
(1)本校図書館の頭の痛い間題としては、第1に予算が僅少なことであります。これは、ここ数年来、防衛予算の削減等の影響を受け、予算そのものが厳しい環境にあること、また図書の価格が高価格化の傾向にあることなどから、図書購入経費が逼迫してきていることであります。そのうえ、図書館が教官や学生の種々の要望に応えるぺ多数の新聞や雑誌を購入してきたため、これらの新聞や雑誌の購入費が増え図書購入経費の弾力性をも失いつつあります。このため、幹部自衛官を教育する我が国唯一の大学校とされながら、国防・軍事関係の図書の購入さえも恩うに任せない面があり、第2次世界大戦や戦後に起こった朝鮮戦争、ペトナム戦争、湾岸戦争などの多岐にわたる文献を揃えることが難しくなっているのが現状であります。特に本年は戦後50年ということもあって、第2次大戦に関する基本的な全集などが次々と出版されていることから、是非ともこれらの文献を取り揃えたいと思っているところです。このため、今後は予算を有効に使用するため、雑誌、新聞、定期刊行物などの購入について抜本的な見直しを行うとともに、本校図書館として整備すべき図書の更なる充実を図りたいと考えています。
(2〕次の問題は、購入した雑誌をいかに製本して後世に残すかということです。学校内各教室で購入した雑誌を製本することは、少ない教官研究費の捻出を伴うため購入雑誌数そのものが減少するかも知れません。しかし、購入した雑誌を製本化することは、研究資科の収集に多大な時間の浪費するよりは遥かに費用対効果の観点から、また、あとに続く人々のためにも有意義なことであると思っています。
(3)次にお願い致したいのは、蔵書や資料を増やすための寄贈の促進であります。旧軍関係者のご遣族の中には、残された古い蔵書の管理に困っておられる方もあると聞き及びますが、現在までのところ本校図書館ではこ遺族の方々から約1万冊近い貴重な蔵書のご寄贈を頂き、教育研究に活用させていただいております。寄贈される方の情報をお知らせ頂けれぱ幸いです。これらの蔵書について、都立大学では陸軍元師上原勇作関係の図書資料などを、また大東文化犬掌では海軍省調査課の資料などを保有し、大学の看板の一つとしている大学もあリます。本校図書館も特徴ある蔵書(学校の性格から安全保障や軍事関係が適当)の充実を図って、防衛大学校の学術的地位を高め、学生に知的財産に触れる悦ぴや誇りを持たせるとともに、教官の研究に役立て学会などにおける存在感を示したいと願っている次第です。
2.学生の「読書離れ」について
昨今では、テレビを中心にメディアが多様化し、知識や情報収集の手段としての読書の効率の低下、さらにはおびただしい出版物の洪水の中で、学生自身が読むべき本を探すのも容易ではないと思います。文部省の調査によると、1ケ月に1冊も本を読まない「不読者(マンガを除く)」が中学生で51パーセント、高校生で61パーセントに達しているといいます。このような若者が入学するので、本校学生の読書離れも着実に進行し、10年前の昭和60年には図書昔用者12,545人、帯出した冊数23,070冊でしたが、昨年の図書借用者は8,976人、帯出した冊数は19,409冊に減少しています。大学教育は学生が図書館をひんぱんに利用し、広範に読書することを前提として成リ立つものであり、このため文部省も大学には必ず図書館の設置を義務づけ、専攻に応じて最小限保有すぺき蔵書の冊数、学術雑誌の冊数、図書業務に関わる専門職員の配置など細かく定め指導しています。この読書離れの傾向を如何に排除すべきでしょうか。図書委員会で本年4月から検討したところ、学生の読書意欲向上には、何よりも動機付が必要であるとの結論に達しました。その対策として文官教官には自己の体験を踏まえ、制服教官や指導官には幹部としての部隊体験(国外派遣・部外者との折衝〕にもとづき、学問や人間形成上から読書の重要性を学生に理解させるとともに、来年4月までには教官や指導官の協力を得て、「在校中に読むべき図書100選」を選定し、学生に紹介すべきであるとの意見がありました。また、学生に読書意欲を与えるだけでなく、教官への親近感や敬意を高め、さらに防衛大学校に誇りを持たせるために、図書館の一隅に教官や卒業生などの著作コーナーを整備したいと思っておりますので、その節は宜しくご協カをお願い致します。
おわりに
歴史が専門であった私は、図書館とは図書を所蔵するところとのイメージが強かった。しかし、現在の図書館は図書だけでなく、ビデオや音声、書画からマイクロフィルム、さらには電子計算機による検索からCD-ROMなど想像以上に電子化が進んでおり、単に来館者を待つ本を所蔵した書庫機能だけではなく、情報を発信する図書館に変身しつつあります。本校図書館も本を所蔵する単なる在来型の図書館から、あらゆる情報を受信し、さらに発信する新しい図書館、学内における文化的中心地にしたいと考えております。
(図書館長兼海上防衛学教授)