『気の進まぬ同盟国:第二次世界大戦中の日独海軍関係』
わが国における日独関係の研究は、日独防共協定や日独伊三国同盟締結などの外交史的分野には優れた研究があるが、 実際に日独両国海軍が実施した共同作戦に関する研究は少ない。しかし、 東西5.000マイル、面積7.334万平キロの広大なインド洋は、連合国にとってはアジア、オーストラリアとヨーロッパを結ぶ動脈であり、 広大なユーラシア大陸が独ソ戦争で遮断された日独にとっては日独を結ぶ唯一の交通路であり、 さらに日独が協力してイギリスを屈服させる海上交通破壊作戦を遂行する戦場でもあった。また、日独両国はインド洋を通じて技術交換や人物交流などを行っていた。
このように、第二次大戦中に日独海軍の目標が一致し実施可能な、 またイギリス屈服に結びつき得た作戦の一つがインド洋作戦であった。そして、戦いに参加した日独両海軍の隊員は苦しい環境下に一致協力した。しかし、このインド洋作戦はソ連打倒を第1と考えるドイツ陸軍、 中国打倒を第1と考える日本陸軍、 イギリス打倒を第1とし、 「海上交通の破壊」に専念するドイツ海軍と、 アメリカ艦隊の撃滅を第1とし、 潜水艦を「艦隊の耳」と考える日本海軍などの両国の国家戦略、 海軍戦略や戦術思想の相違などから、 何ら成果を挙げることなく破綻してしまった。 本書の第1の特徴は、日独伊三国同盟に至る日独海軍関係、次いで第2次世界大戦中に日独海軍が実施したインド洋作戦を豊富な資料に基づいて記述したことである。(特に45頁に及ぶ日独の文献資料は高く評価されている)。第二の特徴はドイツ側からは実際に、この作戦に参加した元駐日海軍武官のクルグ大佐(映画Uボート軍事顧問)と学者2名、日本側は海上自衛隊OBで、防衛大学教授の学者(法学博士)と実務の体験と学術的研究者の両面の視点から分析していることである。
読者は本書を読むことによって、三国同盟ヘの陸軍とは異なる日独海軍の対応、第二次世界大戦中の同盟関係が現場だけのもので、戦略的には協力どころか、互いに相手を利用するだけの国家エゴと相互不信の関係にあり、本書の題名が『気の進まぬ同盟(Reluctant Allies)』となっていることに納得するであろう。
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