秋山真之大尉の勤務訓「天剣漫録」
NHK「坂の上の雲」のドラマで本木さんに差し上げた秋山真之が折々の所感を記した30ヶ条の語録です。秋山が「良将になる心構えはどんなものと考えてよいのか」を自問自答し、記録したのですが、ここには現代にも連なるリーダーの条件の数々が見出せるのではないでしょうか。
1. 細心焦慮は計畫の要能にして、虚心平気は実施の原力也。
2. 敗けぬ気と油断せざる心ある人は、無識なりとも用兵家たり得る。
3. 大抵の人は、妻子を持つと共に片足を棺桶に衝込みて半死し、進取の気象衰へ退歩を治む。
4. 金の経済を知る人は多し。時の経済を知る人は稀なり。
5. 手は上手なりとも、力足らぬときは敗る。戦術巧妙なりとも、兵力少なければ勝つ能はず。
6. 一身一家一郷を愛するものは悟道足らず。世界宇宙等を愛するものは悟道過ぎたり。 軍人は満腔の愛情を君国に捧げ、上下過不及なきを要す。
7. 本年の海軍年鑑を見るに、吾国海軍も幕の内に入れり。精励息まざれば、大関にも横綱にもなるならん。勉強せざれば、又3段目に下がらざるべからず。
8. ネルソンは戦術よりも愛国心に富みたるを知るべし
9. 人生の万事、虚々実々、臨機応変たるを要す。虚実機変に適当して、始めてその事成る。
10. 吾人の一生は帝国の一生に比すれば、万分の一にも足らずと雖も、吾人一生の安を偸めば、帝国の一生危し。
11. 成敗は天にありと雖、人事を尽さずして、天、天と云うこと勿れ。
12. 敗くるも目的を達することあり。勝つも目的を達せざることあり。真正の勝利は目的の達不達に存す。
13. 平時常に智を磨きて天蔵を発き置くにあらざれば、事に臨みて成敗を天に委せざるべからず。
14. 苦きときの神頼みは、元来無理なる注文なり。
15. 教官の善悪、書籍の良否等を口にする者は、到底啓発の見込み無し。
16. 自啓自発せざる者は、教えたりとも実施すること能はず。
17. 岡目は八目の強味あり。責任を持つと、大抵の人は八目の弱味を生ず。宜く責任の有無に拘はらず、岡目なるを要す。唯是れ虚心平気なるのみ。
18. 虚心平気ならんと欲せば、静界動界に修練工夫して、人欲の心雲を払い、無我の妙域に達せざるべからず。兵術の研究は心気鍛錬に伴ふを要す。
19. 天上天下唯我君国独尊は軍人の心剣なり。
20. 進級速かなれば、速やかなる程吾人は早速にて勉強せざるべからず。何となれば一定の距離を行くに少き時間を与へられたればなり。21.
吾人の今後30年、其の内15年は寝て暮らすと思へば、何事を為す遑もなし。
22. 治に居て乱を忘るべからず。天下将に乱れんとすと覚悟せよ。
23. 世界の地図を眺めて日本の小なるを知れ。
24. 世界を統一するものは大日本帝国なり。
25. 家康は三河武士の赤誠と忠勤とに依りて天下を得たり。小大、此理を服膺すべし。
26. 元亀天正の小天地は、目下世界の全面なり。
27. 人智の発達と機械の進歩は、江戸長崎の行軍時間を東京倫敦(ロンドン)の行軍時間と同一にしたることを忘るべからず。
28. 3月になると早や寒さを忘れて陽気に浮かるるようなことにては、次の冬の防寒は覚束なし。
29. 咽元過ぐれば熱さを忘るるは凡俗の劣情なり。
30. 観じ来れば、吾人は緊褌一番せざるべからず。